エネルギー業界の転職相談を受けていると、ほぼ必ず同じ質問をされます。
「FITが終わるのに、この業界に入って大丈夫なんですか」
正直な質問だと思います。
太陽光と聞けば売電、売電と聞けばFIT、そのFITが終わるという話だけが広く知られているからです。
はじめまして、三沢直人と申します。
大学を出て住宅設備メーカーの営業を6年やり、そのあと人材紹介に移って9年になります。
再生可能エネルギーと省エネ機器の分野を担当し、これまで1,200人以上の方と転職面談をしてきました。
メーカー時代の後半は、ちょうど売電価格が高かった時期にあたります。
あの相場が崩れていく過程を、営業の側から見てきました。
この記事では、FITが縮小したあとの太陽光関連会社が実際にどこで売上を作っているのかを、制度の数字と実在する会社の姿の両方から整理します。
景気のいい話も、都合の悪い話も、両方書きます。
FITが終わるというのは、何が終わることなのか
10年間だけの約束だった
住宅用の太陽光発電に対する国の買取制度が始まったのは、2009年11月です。
このとき設定された買取価格は40円台後半という高い水準で、買取期間は10年間と決められていました。
ここが重要な点です。
「10年間」と最初から決まっていたので、2019年の秋から順に、買取期間を終えた家庭が出はじめました。
これがいわゆる卒FITです。
制度が突然打ち切られたわけではありません。
約束どおり10年で満了しているだけです。
ただ、その10年が明けた瞬間に、その家庭の売電収入は大きく下がります。
2026年度の価格表が語っていること
現在の制度がどうなっているかを見ると、国がどちらを向いているかがはっきり分かります。
経済産業省の調達価格等算定委員会がまとめた令和8年度以降(2026年度以降)の調達価格等についてによれば、住宅用(10kW未満)の2026年度のFIT調達価格は、1年目から4年目までが24円/kWh、5年目から10年目までが8.3円/kWhという二段構えになっています。
2024年度は10年間ずっと16円/kWhでした。
それが、最初の4年で厚く払って後半は薄くする形に変わったわけです。
総額を早く回収させて、そのあとは自分で使ってくださいという設計です。
事業用のほうはもっと露骨です。
同じ資料には、2026年度・2027年度は50kW以上をFIP制度のみが認められる対象とし、FIT制度の対象としないこと、そして地上設置の10kW以上の区分は2027年度以降に支援を停止することが明記されています。
つまり「野立てのパネルを並べて20年間売電する」という、かつて業界の主役だったモデルは、制度の側からたたまれつつあります。
売電10円、自家消費27円。答えはこの差の中にあります
では、卒FITを迎えた家庭の電気はいくらで売れるのか。
先ほどの算定委員会の資料には、住宅用の採算計算をするときの前提値がすべて載っています。
そこに書かれている「調達期間終了後の売電価格」は、10.0円/kWhです。
一方、同じ資料で「自家消費分の便益」として置かれている値は27.31円/kWhです。
これは、自分の家で発電した電気を自分で使えば、その分だけ電力会社から買わずに済むという意味の金額です。
| 発電した1kWhをどうするか | 想定される金額 |
|---|---|
| 卒FIT後に電力会社へ売る | 10.0円/kWh |
| 自分の家で使う(買電を減らす) | 27.31円/kWh |
出典:経済産業省 調達価格等算定委員会「令和8年度以降(2026年度以降)の調達価格等について」の住宅用10kW未満の前提値
差は約2.7倍です。
しかもこれは業界団体の宣伝文句ではなく、国が制度を設計するときに置いている想定値です。
実際の買取単価も確認しておきます。
たとえば中部電力ミライズの卒FIT後の買取プランを見ると、シンプルプランが7円/kWh、プレミアムプランが8円/kWh、再エネスマートプランが7〜12円/kWhと案内されています。
10円を超えるメニューもありますが、条件が付くことが多い。
おおむね7円台から9円台が実勢だと考えておけば、大きくは外れません。
ここまで来ると、この業界の売上がどこへ移ったかは自然に見えてきます。
発電した電気を売って稼ぐ商売ではなく、発電した電気を家の中で使い切らせる商売です。
FIT後の太陽光会社は、この4つで食べています
面談で私が説明するとき、収益の柱を4つに分けて話しています。
1. すでに太陽光がある家に、蓄電池やエコキュートを足す
これが今の主戦場です。
先ほどの算定委員会の資料では、住宅用の余剰売電比率が70.0%と置かれています。
発電した電気の7割は売りに回っていて、家の中で使えているのは3割という前提です。
売る分が10円で、使う分が27円。
ということは、この「7割」を家の中に取り込むほど家計は得をします。
その道具が、蓄電池であり、エコキュートであり、オール電化であり、電気自動車を家の電源として使うV2Hです。
太陽光を新しく載せる家を探すより、すでに載っている家に後から機器を足すほうが、話が早い。
だから今、この業界の営業リストは「太陽光がまだない家」ではなく「太陽光がすでにある家」になっています。
2. 工事そのもの
見落とされがちですが、これは非常に堅い柱です。
パネルを載せるにも、蓄電池を置くにも、エコキュートに替えるにも、電気工事と施工管理が必要です。
買取価格が何円になろうと、工事の手間は変わりません。
第二種電気工事士や施工管理の経験を持っている人が業界内で引き合いが強いのは、この部分が制度変動の影響を受けにくいからです。
面談していても、ここは実感します。
営業職の求人は景気や制度で増減しますが、工事側の求人が細ったところを私はあまり見たことがありません。
むしろ人が足りていない会社のほうが多い。
未経験から入る場合も、資格取得支援がある会社を選んでおくと、数年後の選択肢がまったく違ってきます。
3. 設置してからの保守と点検
2017年施行の改正FIT法により、発電設備を適切に保守点検・維持管理することが事業者の遵守事項として位置づけられました。
また、10kW以上の設備には廃棄等費用の積立制度もあります。
設置から10年、15年と経った設備が積み上がってきた結果、点検・修理・パネル交換・撤去といった仕事が確実に増えています。
一度売って終わりではなく、設置済みの顧客が資産として残る構造です。
この点は転職者にとっても意味があります。
新規の販売だけで回している会社は、市況が冷えたときに一気に苦しくなる。
一方、保守や点検で毎年顔を合わせる顧客を持っている会社は、そこから蓄電池の追加提案や機器の入れ替えにつなげられます。
選考を受けるときは、その会社が設置後の関係をどう持っているかを見てください。
4. 産業用の自家消費と、新築側の需要
家庭向けだけではありません。
2025年2月に閣議決定された第7次エネルギー基本計画では、2040年度の電源構成のうち太陽光を23〜29%程度とする見通しが示されています。
2023年度の速報値は9.8%ですから、発電量としては大きく増やす前提です。
この見通しは資源エネルギー庁が公開しているエネルギー基本計画の概要資料で確認できます。
工場や倉庫の屋根に載せて自社で使う自家消費型、初期費用を事業者が負担するPPAといった形が、ここに乗ってきます。
新築住宅側にも制度の後押しがあります。
東京都では2025年4月から建築物環境報告書制度が始まりました。
ここで注意したいのは、義務を負うのが家を建てる施主ではないという点です。
東京都環境局の中小規模新築建物における対策によると、対象は都内での年間供給面積が20,000平方メートル以上の事業者、つまり大手ハウスメーカーなどです。
「東京で家を建てたら全員パネルが義務」という話が広まっていますが、正確ではありません。
面接でこの制度の話が出たときに正しく整理できると、それだけで印象が変わります。
実際の会社を、この目線で見てみます
制度の話だけでは実感が湧かないと思うので、1社を例に見てみます。
東京都中央区勝どきに本社を置く株式会社エスコシステムズです。
創業は2011年、設立は2013年で、公式サイトによれば従業員は89名(2025年9月時点)。
さいたま、仙台、大阪、新潟に拠点を持っています。
社名のESCOはEnergy Service Companyの略で、省エネ設備の導入費用を光熱費の削減分でまかなうという事業の考え方から取ったものだと同社は説明しています。
この会社を先ほどの4つの柱に当てはめると、構造がよく分かります。
- 扱う商材は「省エネ・創エネ・蓄エネ」の3領域で、エコキュートやオール電化、太陽光、蓄電池が並ぶ
- 営業職の仕事内容が、すでに太陽光を設置している家庭を訪問して機器を提案するという形になっている
- 電気工事事業者登録と建設業許可を持ち、販売から施工まで自社で完結させている
- アフター側としてドローンによるパネルや屋根の点検を行っている
- 主要取引先に信販会社と損害保険・保証会社が並んでいる
最後の点は地味ですが、読みどころです。
数十万円から百数十万円の機器を、ローンと長期保証をセットにして売る。
その形が商売の前提になっている、ということです。
表彰の顔ぶれも示唆的です。
同社の発表によれば、東北電力から電化普及活動で5年連続の感謝状、ENEOSサンエナジーから6年連続の表彰を受けています。
メーカーや電力会社の販売網の一員として評価されている会社だと読めます。
一方で、気になる点も書いておきます。
転職口コミサイトを見ると、総合評価は3点台前半で賛否が割れています。
若手が多く人間関係が良い、直行直帰で拘束が緩い、成果が給与に反映されるという声がある反面、訪問型の営業手法そのものへのストレスを挙げる声、体育会系の文化だという指摘、事務職の昇給が薄いという声もあります。
いずれも匿名投稿なので鵜呑みにはできませんが、訪問営業が中核である以上、向き不向きははっきり出る仕事です。
会社の基本情報や募集職種、福利厚生についてはエスコシステムズの企業情報ページにまとまっているので、興味があれば一度目を通してみてください。
面接で聞いておきたい5つの質問
この業界を受けるなら、次の5点は必ず確認してください。
遠慮する必要はありません。答え方そのものが判断材料になります。
- 売上構成のうち、新規設置と既設顧客への追加提案はどのくらいの比率か
- 施工は自社で行っているか、それとも外注か
- 設置後の保守・点検を収益として持っているか
- 集客は訪問中心か、紹介や反響(問い合わせ)もあるか
- インセンティブは何に対して支払われるか。契約時か、工事完了時か
そのまま使える聞き方の例を挙げておきます。
「御社の売上のうち、すでに太陽光を設置されているお客さまへのご提案が占める割合は、どのくらいでしょうか」
「工事は自社の職人さんが行うのか、協力会社に依頼する形か、教えていただけますか」
この2つに具体的な数字や体制で答えられる会社は、自社のビジネスモデルを把握しています。
逆に「これから伸びる業界なので大丈夫です」としか返ってこない会社は、正直なところ、私は勧めません。
まとめ
FITが終わっても、太陽光の仕事はなくなりません。
ただ、稼ぎ方の場所は確実に移りました。
売電10.0円に対して自家消費27.31円という国の想定値が、その移動先を端的に示しています。
売る商売から、使わせる商売へ。
新規設置から、既設顧客への追加提案と保守へ。
この業界を検索すると、訪問営業への厳しい言葉が先に目に入るはずです。
その視線は事実として存在しますし、消えることもありません。
それを引き受けたうえで、家庭の光熱費を下げる提案をきちんとできるかどうか。
そこが向き不向きの分かれ目だと、1,200人と話してきて感じています。
制度は変わり続けます。
だからこそ、制度を読む力がそのまま営業力になる珍しい業界でもあります。
受ける会社を決める前に、その会社が「どこで食べているのか」を必ず確認してください。
